治験でオンライン診療を活用する際のよくある質問 〜検討編〜
DCT入門治験でオンライン診療を活用するとき、様々な検討ポイントがでてきます。以下の3つの場面で、それぞれよくある質問と、その回答についてまとめていきます。
・治験でのオンライン診療の検討フェーズ
・治験でのオンライン診療の導入準備フェーズ
・治験でのオンライン診療の運用フェーズ
本記事では、1つ目の治験でのオンライン診療の検討フェーズ活用で役に立つ内容をまとめていきます。記載内容は随時の更新に努めて参りますが、一部古い情報や規制等に基づいた見解が残っている可能性があることをご容赦ください。
Q1:オンライン診療が向いている疾患や薬剤は何か?
オンライン診療によって患者の通院負担を軽減させるためには、適切なユースケースの設定が重要です。疾患や薬剤としての向き不向きを判断する際には、例えば以下のような観点を参考にしてみてはどうでしょうか。
a) 疾患管理及び治験手順の準拠
疾患の適切なモニタリング方法や治験実施計画書の手順(評価・検査等の内容及び頻度など)はオンラインで対応できる余地があるものかどうか
b) 薬剤の毒性プロファイル
使用が想定される薬剤(よく使われる併用薬なども含む)について、毒性プロファイルにおける発現頻度や重症度等を踏まえた際に、オンラインを組み込んだ毒性管理とすることも可能と判断できるかどうか
c) 投与方法
薬剤の投与は、来院や入院が必要なものなのか、自己投与が可能なものなのか
d) 医療機関へのアクセス性
患者の病態による歩行困難性や介助者の必要性、また、専門病院の少なさなどにより、医療機関への来院にハードルがあるかどうか
Q2:全ての症例やVISITでオンライン診療を使うべきか?
全ての被験者やVISITでオンライン診療にて対応すべきという一般的な決まりはありません。被験者の安全性確保を前提に、個々の被験者の病態に合わせ、従来の対面診療とオンライン診療を適切に組み合わせることもあります。
被験者やVISITごとに対面とオンラインでの手順が混在するケースについて国内外いずれも多く実施されていますが、治験における重要な有効性・安全性評価のばらつきが生じるリスクなどを、十分に評価、検討した上での計画が必要です。
Q3:オンライン診療の導入判断は、どうすべきか?
オンライン診療を特別に考える必要はなく、従来の治験計画策定時における様々な手順の検討をされる際と同様に、「被験者の安全性」「GCP準拠」等の種々の側面から「オンライン診療手順の導入が適切か」を吟味されることが重要であると考えます。
オンライン診療については、実臨床における規制や指針などが比較的流動的な状況にもあるため、特に治験手順外としての対応も発生しうる場合は、当該「実臨床における規制・指針」についても実施医療機関等と十分に協議をする必要があると考えます。
Q4:従来の手法で成り立っているところにオンライン診療を導入する意味はあるのか?
従来の手法の中で、被験者や医療機関の負担、治験期間及びコスト、評価のばらつき等の「課題」が無い場合は、無理に負荷をかけて新たな手法の導入検討を進める必要性はないかもしれません。
一方で、上記のような課題が残存しており、そこにオンライン診療という手法が改善への寄与をする可能性がある場合は、一考の余地があると考えます。計画される治験の内容によって期待される効果等は千差万別であるため、実績あるパートナー等と個々の状況に合わせた導入検討をされることをお薦めします。
Q5:オンライン診療が使えない患者に対して、どう対応するべきか?
オンライン診療システムを使用するための「端末」の問題か、「通信環境」、「ITリテラシー」かなど、対処すべき集団が抱える問題点をまずは明確にする必要があります。問題点に合わせて、機器等の貸与、トレーニング実施、別手段の構築など、対策を検討していきます。
Q6:医療機関で使う端末は、どう用意するのか?
一般的な決まりはなく、医療機関が有する端末の使用はもちろん、医療機関への貸与(治験依頼者、CRO、ITベンダーからなど様々)といった対応がなされています。オンライン診療の対応条件(画面サイズ、処理能力など)を均一にしなければならない場合や、他の治験システムを同端末で使用したい場合など、準備する端末の条件を統一すべきケースもあります。
Q7:患者が使う端末は、どう用意するのか?
一般的な決まりはなく、被験者が有する端末(BYOD)の使用はもちろん、被験者への貸与(治験依頼者、CRO、ITベンダーからなど様々)といった対応がなされています。オンライン診療の対応条件(画面サイズ、処理能力など)を均一にしなければならない場合や、他の治験システムを同端末で使用したい場合など、準備する端末の条件を統一すべきケースもあります。
Q8:端末のOSや利用ブラウザのバージョンなどに制約はあるのか?
オンライン診療のシステムにより求められる要件が異なるため、個別にシステムソリューションプロバイダーにご確認ください。
Q9:オンライン診療時の負担軽減費の設定はどうするべきか?
負担軽減費の設定は、原則的な考えである「被験者の心理的・物理的負担を勘案した支払い」に準じて検討します。
オンライン診療にて対応するVISITについては、「来院が不要となる」負担の軽減だけではなく、「被験者宅の通信環境を利用したITシステムへのアクセス」といった負担が増える点も考えられます。このような、負担の減少と増加の両面を考慮した上で、適切な費用設定について各治験依頼者と実施医療機関の間にて金額の設定と承認がなされています。
Q10:汎用システムと比べて治験専門のシステムを用いるべきか?
治験においてオンライン診療を実装する場合、使用するシステムについては多くの選択肢があります。いわゆる「汎用システム」として『テレビ会議システム』があり、その他、『実臨床向けのオンライン診療システム』や、『治験用に開発された治験専用システム』があります。
上記のいずれのシステムも検討は可能ですが、セキュリティー面の担保やCSV(Computer System Validation)への対応、監査証跡対応等の面において、固有規制準拠が必要な治験対応における安全・安心な実装を考えると『治験専用システム』をお薦めしております。求められる詳細なシステム要件についてはオンライン治験に関するガイドラインもご参照ください(令和4年度中に発出予定)。
Q11:オンライン診療のシステム上の監査証跡は残す必要があるのか?
GCP及びER/ES指針への対応として、電磁的な治験データの記録を行う場合は監査証跡のモニタリングは必須のシステム要件となります。
オンライン診療のみを活用するケースを考えた場合、「オンライン診療の通話記録のデータ」が論点になりますが、使用するオンライン診療システム上に実施記録(通話記録)が自動的に残る場合は、いつ、誰が通話し、どのように記録に残るのか、またそれは編集不可なデータなのか、といったシステム要件は事前に確認しておくことが必要と考えております。
Q12:導入検討時に考慮すべき法規制やガイドラインには何があるのか?
関連する規制やガイドラインとしては、以下が挙げられます。
タイトル |
最新版の日付 |
医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について
(2005年4月1日付け薬食発0401022号厚生労働省医薬食品局長通知別紙) |
2005年4月 |
医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン
(2010年10月21日付け薬食監麻発1021第11号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知別紙) |
2010年10月 |
新型コロナウイルス感染症の影響下での医薬品、医療機器及び再生医療等製品の治験実施に係るQ&A
(2020年3月27日付け2020年5月26日更新医薬品医療機器総合機構) |
2020年5月 |
治験の依頼をしようとする者による薬物に係る治験の計画の届出等に関する取扱いについて
(2020年8月31日付け薬生薬審発0831第10号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知) |
2020年8月 |
FDA Guidance on Conduct of Clinical Trials of Medical Products during COVID 19 Public Health Emergency
(2021年8月) |
2021年8月 |
Digital Health Technologies for Remote Data Acquisition in Clinical Investigations Guidance for Industry, Investigators, and Other Stakeholders DRAFT GUIDANCE (2021年12月) | 2021年12月 |
オンライン診療の適切な実施に関する指針
(2022年1月一部改訂) |
2022年1月 |
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5.2版
(2022年3月厚生労働省) |
2022年3月 |
医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令
(1997年厚生省令第二十八号)(2021年厚生労働省令第十五号による改正) |
2022年5月 |
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン
(2020年8月策定2022年8月改訂総務省、経済産業省) |
2022年8月 |
製薬協が提供している下記の資料も参考資料としてご活用ください。
タイトル |
最新版の日付 |
日本製薬工業協会 | 2020年9月 |
日本製薬工業協会 | 2021年7月 |
Q13:オンライン診療の導入の費用負担は誰がすべきか?
一般的な決まりはありません。一方で、現在は国内におけるオンライン診療システムの普及が黎明期であることや、治験におけるオンライン診療実施に関する規制要件等が不明瞭であることなどから、「治験用の手順・使用システム」としてオンライン診療を導入するケースがほとんどであり、その場合はEDCやIWRS等と同様に「治験依頼者が費用の負担」をしています。
次の記事では、
・治験でのオンライン診療の導入準備フェーズ
・治験でのオンライン診療の運用フェーズ
のよくあるご質問についても整理していきますので、是非そちらも御覧ください。